国際会議(Riga STRATCOM Dialogue 2026)参加報告

本研究所の上席研究員の佐々木がNATO STRATCOM COE(NATO戦略的コミュニケーション卓越セ
ンター)の招聘に基づき、2026年6月3日~4日にラトビアで行われたRiga STRATCOM Dialogue 2026に
参加し、パネリストとして登壇したので、その概要について報告します。
1 日 程
2026年6月2日〜6月4日
2 場 所
ラトビア・リガ
3 概 要
▷ラトビア・リガで開催されたRiga Stratcom Dialogue 2026に参加し、戦略的コミュニケーションの最新の議論を把握することができた。佐々木は、同Dialogueの日本をテーマにした分科会に登壇した。
▷ 今回の出張を通じて確認されたのは、戦略的コミュニケーションは、広報や偽情報への反論にとどまらず、国家安全保障、同盟運営、社会のレジリエンス、AI時代の認知防衛に関わる重要な政策領域になっているという点である。
▷ 戦略的コミュニケーションの焦点は、「情報」から「認知」へ広がっている。従来は、偽情報を見つけ、訂正し、正しい情報を届けることが中心だった。しかし現在の議論では、人々が何を信じ、何を恐れ、どのように判断し、どのように行動するかが中心に置かれている。NATOが議論する「認知的優位」は、ナラティブ、心理、意思決定をめぐる継続的な競争であり、軍事作戦、外交発信
、社会的信頼、AI環境が相互に関係している。
▷ Dialogue全体を通じて、西側も、より能動的・オフェンシブな戦略的コミュニケーションを検討しなければならないという問題意識も議論されていた。敵対者が情報操作や認知戦を通じて社会の分断や意思決定の混乱を狙う中で、西側も、事後的な反論にとどまらず、より能動的・オフェンシブな戦略的コミュニケーションを検討する必要があると強調された。
▷さらに、AIが戦略的コミュニケーションを大きく変える要因として取り上げられた。生成AI等の普及により、敵対者は人間だけでなく、AIが参照する情報環境そのものを操作対象にし得る。AIデータ・ポイズニングやLLMグルーミングのように、AIが取り込むデータや参照元を汚染することで、AIの回答を通じて人々の認識に影響を与える可能性がある。今後、国家や組織は、人間にどう伝
えるかだけでなく、AIにどう読まれ、要約され、引用されるかも考慮する必要がある。
▷ また、戦略的コミュニケーションは戦後をめぐる争いにも関わる。ウクライナ戦争は、停戦や和平合意だけでは終わらないとされた。誰が侵略者で、誰が防衛者だったのか、何が勝利で、何が敗北だったのか、どのような責任追及と記憶形成を行うのかをめぐって、戦後も情報戦は続く。戦略的コミュニケーションは、戦後秩序、責任追及、抑止、歴史認識を支える重要な要素でもあると議論された。
▷ 日本にとっての示唆は大きい。日本も、中国等による情報操作、歴史認識をめぐるナラティブ攻撃、AIによる情報環境の変化に直面している。日本はこれまで、比較的慎重で事後対応型の情報発信を行ってきたが、今後は、事前の備え、プリバンキング、国際発信、敵対ナラティブの予測と抑止、社会全体のレジリエンス、AI時代の情報防衛に対応も考慮する必要があると議論された。
分科会「日本:戦略的メッセージングを通じた地域安全保障の強化」
登壇者:Dr. Giulio Pugliese(Director EU-Asia Project, European University Institute)、桒原響子(
日本国際問題研究所)、佐々木孝博(JUST上席研究員)、Dr. Una Aleksandra Bērziņa-
Čerenkova(Director, Latvian Institute of International Affairs)
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▷ 日本は、中国・ロシアによる情報操作・認知戦の直接的な対象になっている
▷ 中国は、福島第一原発の処理水放出をめぐり、「核汚染水」という政治的に強い表現を
用いて、日本への批判を国際的に拡散した。
▷ ロシアは、日本国内の情報空間を利用し、対ロ制裁、ウクライナ支援、日米同盟への批
判を広げようとした。
▷ 日本の戦略的コミュニケーションは、安倍政権以降特に発展しつつある
▷ 安倍政権以降、外交・情報・軍事・経済を組み合わせた包括的な国家戦略が重視される
ようになった。
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▷ 安倍首相を中心とする政策決定能力の強化が、戦略的コミュニケーションの発展の基礎
となった。
▷ 岸田政権では、「今日のウクライナは明日の東アジア」というメッセージを通じて、安
全保障上の危機認識を国内外に伝達。
▷ 日本の戦略的コミュニケーションは、相手によってナラティブを使い分けている
▷ 国内向けには、防衛力強化や国際的な役割拡大について、歴史的に反対傾向のある世論
を説得する役割がある。
▷ 国際向けには、中国の行動、台湾海峡、尖閣諸島、東シナ海・南シナ海をめぐる問題に
ついて、日本の立場を発信する役割がある。
▷ 米国向けには、中国へのより強い警戒や対抗姿勢を共有するメッセージが強調される。
▷ 東南アジア向けには、主権尊重、ルール形成、選択肢の提供といった、より建設的なメ
ッセージが重視される。
▷ 「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」は、日本の戦略的ナラティブの成功例
▷ 「インド太平洋」は、かつては海洋生物学などで使われる用語だったが、日本の働きか
けにより外交・安全保障上の戦略概念として定着した。
▷ 米国にとっては対中封じ込めや抑止の文脈で理解される。
▷ 東南アジアにとっては、中国との関係を完全に断つのではなく、選択肢を広げるヘッジ
ングの文脈で受け止められる。
▷ 同じ言葉でありながら、相手によって異なる意味を持たせられる点が、FOIPの戦略的効
果を高めている。
▷ 日本の対応は、事後的な反論から、予防的・能動的な発信へ移行する必要がある
▷ これまでの日本の対応は、偽情報や誤解を招くナラティブが拡散した後に反論する「デ
バンキング」が中心だった。
▷ デバンキングは重要だが、拡散後の対応だけでは不十分である。
▷ 今後は、偽情報が広がる前に先回りして備える「プリバンキング」が重要になる。
▷ 省庁間の連携を強化し、一貫したメッセージを迅速に発信する必要がある。
▷ 特定の対象や脆弱な層に合わせた、より精密なメッセージ設計も求められる。
▷ 中国を名指しするかどうかは、日本にとって難しい政策判断である
▷ 福島処理水問題では、中国による批判キャンペーンが比較的明確に認識された。
▷ 一方、歴史認識問題や沖縄をめぐるナラティブでは、日本政府は中国を直接名指しする
ことに慎重。
▷ 直接の名指しは、中国側の反発を招き、日中関係を不安定化させる可能性がある。
▷ ただし、曖昧な対応は、情報操作への抑止力を弱める可能性もある。
▷ ファクトチェックは重要だが、政府が担う場合には民主主義上のリスクがある
▷ 政府が「何が真実か」を判断する仕組みは、表現の自由への懸念を生む可能性がある。
▷ そのため、ファクトチェックは信頼される独
立機関、専門家、報道機関、研究者などが担
うことが望ましい。
▷ 偽情報対策は、民主主義のルールや自由主義
的価値を守りながら進める必要がある。
▷ 日本国内でも、国内発の誤情報が影響を持ち始めている
▷ JICAの「アフリカ・ホームタウン」関連の誤
情報は、国内発の可能性が高い。
▷ 排外主義的な言説や右派政党の支持拡大に影
響した可能性。
▷ この事例は、日本の情報環境が外国からの操
作だけでなく、国内発の誤情報にも脆弱であ
ることを示している。
▷ AIは、今後の情報操作対策の重要な焦点である
▷ 日本でも、AIが外国のナラティブによって汚
染されるリスクが認識されている。
▷ これらのナラティブがAIの学習データや回答
生成に影響すると、日本に不利な言説が情報
空間で主流化する恐れがある。
▷ AI時代の情報操作対策では、データ汚染、生
成AIの出力、プラットフォーム規制を含めた
包括的な対応が必要になる。




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